2018年 06月 20日
青は藍より出でて藍より青し |
僕には料理人としての師匠と呼べる人はいません。
一番最初に働いたレストランのシェフは不甲斐ない辞め方をした後も僕に優しく言葉をかけてくださいますがそのレストランで僕は何一つ成し遂げられなかった。
人として最大限に尊敬しているシェフですが僕には弟子を名乗る資格はまだ無い。
そんな僕の料理を現在の場所まで導いてくれたのは何人かのメンターでした。
自信満々で独立した後すぐに自分の非力さを知り夢中で追いかけたのは同じ時期にオープンした今はもう無い大阪の2軒のレストランのシェフでした。
1人はスパイスとハーブと組み合わせの魔術師。
1人は当たり前のことを当たり前にやって異次元の料理に仕上げるレジェンド。
節操がないくらい真似しました。いや、パクったと言っても良いかもしれない。
それぞれの事情で相次いで次のステージに行ってしまい進む道を見失い途方にくれていた頃に出会ったのが3人目のメンターであるパリのシャトーブリアンのシェフ、イナキでした。
彼からは会うたびに。時々酔っ払って電話しながら多くのことを学びました。素材の扱い方、丁寧な加熱、ハッとさせられる組み合わせ、アイデアとジョーク、皮肉と愛。彼の作った料理(アンディーブのキャラメリゼとアグリューム)を始めて食べた時からずっと彼に憧れています。
そしてもう一人…
彼はかつて僕の弟子でした。でしでした。
有名なカフェで働いてはいましたが僕のところに来たときは全くダメ。
基本的な素材の名前も扱い方も知らずもちろん僕の仕事のペースには着いてこれない。後年言われて思い出したのですが最初の頃に僕は彼に『おれが集中してる時に近づくな。邪魔。』と告げました。
酷い事を言ったもんですがそれにはレストランという同じ船に乗り仕事する以上みんなで息遣いを合わせて進んでいく必要があり、当時船頭であった僕自身に合わせてもらうことが最善だと信じていたからこそ吐き出した本音でした。
叱られたり、呆れられたり、バカにされたり。そのどんな時でも彼はいつだって真っ直ぐ僕の目を見ていました。
ステキな親御さん(エスパスのお客さんでもありました)に育てられた彼はいつだってキチンと挨拶をして、ユーモアを忘れずに謙虚に仕事を覚えていきホール係、パンとパティスリー、前菜と下処理と実力をつけて、やがて僕の独断場であるストーブ前(ソースやメインのお料理を作る調理場の心臓部)を奪って僕よりも上手に肉を焼き、ソースを仕上げる様を見て少し寂しくてみっともなくて、でも嬉しかった事を今でも時々思い出します。
僕の元でやるべきことがなくなった彼はフランスへと旅立ちました。
南仏mirazur、パリLa bigarrade を経てシェフを任されたclande やaux duex amis 。帰国の度に、時々僕が訪ねて、または酔っ払って電話をかけて…
10年超の時間を僕の憧れの地フランスで過ごし、いつのまにか紹介もしていないのに僕の親友イナキとも仲良くなって。それ以外にも雑誌やネットで見るすごいシェフ達が彼の周りにはいっぱいいました。
彼から聞くフランスでのフランス料理のリアルタイムな日常は自然体で日常的なフランス料理を提供したいと不自然に足掻く僕を照らす光となっていました。
新しい素材の名前を扱い方も彼からたくさん教えてもらいました。ハッとさせられる組み合わせ、アイデアとジョーク、冷静と情熱。いつしか弟子であった渋谷君が僕のメンターになっていました。
アノニムになってからの僕の料理の半分は彼から教わったことです。
エスパス出身者の子達は僕よりも彼のことを慕っているのじゃぁないかなぁ?(飛ぶ鳥を落としまくっている大阪アニエルドールの藤田君もその一人)
そんな僕の大切な友人が東京でのふざけた名前の料理店を始めました。
sans déconner ソン デコネ
関西弁でいうと『ンなアホな!』とか『なんでやねん!』とか『知らんけど』とか『もうエエわ』みたいな(多分)バカバカしい名前のレストランです。
本当は彼の故郷でもある神戸で彼の店を出して欲しかった。
彼が帰国するまでには神戸でパリと同時進行系のフランス料理屋をやるんだ。その土壌を作るんだと頑張ってきたけどまだすこし無理でした。
東京なら今の彼の思うフランス料理屋が受け入れられることでしょう。
エスパスを出てから癖のあるシェフやオーナー達と対等に渡り合ってきた彼の癖のある(笑)料理を是非食べに行ってください。リアルタイムのパリと遜色のないレストランにダイブして楽しんでみてください。そしていっぱい写真を撮って僕に見せてください。
帰国する度に腕に消えない落書きが増えパッと見難しそうに見えるシェフですがその礼儀正しさ、謙虚さ、真面目さ、アイデア、愛。
全てにおいて僕のメンターとなったかつての弟子のレストランをどうぞよろしくお願い致します。
青は藍より出でて藍より青し。
アニエルドール藤田君の時も思いましたがかつての弟子に抜き去られることがなんと幸せなことか!
だからもう少しでもフランス料理が上手になりたいし、かっこええ店が作ってみたくなるのです。
頑張って追いかけるからもっとスピード上げろよ。もっと遠くまで行こうや。
そんなめんどくさいこと言ったら彼はいうかな?
sans déconner!!!
ソンデコネ
東京都渋谷区松濤2-13-10
☎︎03-6479-4625
ホームページ等情報はまだ少ないですが是非お問い合わせの上から予約してみてください。
写真はエスパス トランキル開店準備中に渋谷君と行ったホームセンターで買った厨房用の時計。
なんてことない小さな時計ですが14年間動き続けています。
僕や渋谷君や他のみんなの過ごした時間を刻み続けています。
by anonyme-kobe
| 2018-06-20 23:05