2011年 10月 15日
ブルーハーツ |
1999年の冬にフレンチアルプスの雄大なスキー場の中の
レストランで短い間ですが働かせてもらった事があります。
そこは海抜の上でもミシュランのヒエラルキーの上でも僕が
それまで働いていたレストランよりは一段上で、当時の流行を意識した
複雑で手の込んだ所謂“盛り込み系”の料理を多く用意していました。
スタッフ皆が知っている(僕は知らない)有名人やV.I.Pのお客さんは
そういった“今”の料理を注文される方が多かったのですが、地元の
古くからのお客さんは先代のシェフから受け継がれた素朴な料理を
召し上がられる方が圧倒的に多く,その中でも一番の人気は
“オニオングラタンスープ”でした。
半年寝かせた水分の少ない玉ねぎをじっくりと飴色になるまで炒め、
きれいに澄んだブイヨンと塩、胡椒、ナツメグだけでシンプルに味付けをしたものを
オーダーが入る度にしっかりとグリルした田舎パンにニンニクを擦りつけ、
削りたてのボーフォールチーズをたっぷりとのせオープンへ。
表面が湧きたち、美味しそうな焼き色がつけば粗く砕いた黒コショウをのせテーブルへ。
幾人もの共同作業で色々な食材を多彩に調理して盛り付けることの多かったこの店では
オーダー以降仕上げまでを一人で行う数少ないメニューの一つでした。
もともとはシェフのおばぁさんのレシピがベースで細かく決められたことが多かったのですが、
それでも擦りつけるニンニクの量やチーズの量、田舎パンをどの程度グリルするか?
などシェフの厳しいチェックからこぼれおちた本当に小さなことで出来上がりの
“香り”が微妙に違い担当のスタッフの個性がよく表れていておもしろかったです。
ナツメグの懐かしいような甘い香りの好きな僕は他の人よりもその香りが強かったみたいで
現場を仕切るスゴン(二番手)からは「“現在的”ではない。」と言われることもありましたが、
彼もシェフもだまって僕に任せてくれました。
ビザの問題で早々にその店を去らねばならない朝に
それまであいさつしかしたことの無かった大マダム(シェフのお母さん)が
「君の作るオニオングラタンスープが“今年”は1番だったのに」と期間限定ですが
褒めて頂けたのも結局は“現在的”(または現代的)では無いナツメグの香りにあったのかも
知れません。
時が流れて現代の“現在的”な料理を目指す僕がシェフとなっても
初夏に淡路島から送られてきた玉ねぎが冷暗室でゆっくりと甘みを蓄えた秋になると、
そしてそれをじっくり炒め今年もオニオングラタンスープを仕込みだすと、
アルプスでの情熱と感傷の短い冬に駆け抜けた灰色の夜明けを思いだします。
それは学生時代に聞いていたブルーハーツが今も色あせず、寄りかかる想い出の
中にあってもなお“永遠”であることに少し似ているかもしれません。
ただアノニムでは多皿コースを展開するうえである程度の量を必要とする
従来のスタイルではヘビー過ぎるので、本質を担保しつつ変形してお出ししています。
ナツメグの香るオニオンスープをたっぷりと吸った田舎パンのフレンチトースト。
何かが弾け飛び散ったまさしく「食べるスープ」です。
僕の過ぎ去った永遠の強い痛みを持つ今年のタパス(小皿料理)でした。
too much pain
レストランで短い間ですが働かせてもらった事があります。
そこは海抜の上でもミシュランのヒエラルキーの上でも僕が
それまで働いていたレストランよりは一段上で、当時の流行を意識した
複雑で手の込んだ所謂“盛り込み系”の料理を多く用意していました。
スタッフ皆が知っている(僕は知らない)有名人やV.I.Pのお客さんは
そういった“今”の料理を注文される方が多かったのですが、地元の
古くからのお客さんは先代のシェフから受け継がれた素朴な料理を
召し上がられる方が圧倒的に多く,その中でも一番の人気は
“オニオングラタンスープ”でした。
半年寝かせた水分の少ない玉ねぎをじっくりと飴色になるまで炒め、
きれいに澄んだブイヨンと塩、胡椒、ナツメグだけでシンプルに味付けをしたものを
オーダーが入る度にしっかりとグリルした田舎パンにニンニクを擦りつけ、
削りたてのボーフォールチーズをたっぷりとのせオープンへ。
表面が湧きたち、美味しそうな焼き色がつけば粗く砕いた黒コショウをのせテーブルへ。
幾人もの共同作業で色々な食材を多彩に調理して盛り付けることの多かったこの店では
オーダー以降仕上げまでを一人で行う数少ないメニューの一つでした。
もともとはシェフのおばぁさんのレシピがベースで細かく決められたことが多かったのですが、
それでも擦りつけるニンニクの量やチーズの量、田舎パンをどの程度グリルするか?
などシェフの厳しいチェックからこぼれおちた本当に小さなことで出来上がりの
“香り”が微妙に違い担当のスタッフの個性がよく表れていておもしろかったです。
ナツメグの懐かしいような甘い香りの好きな僕は他の人よりもその香りが強かったみたいで
現場を仕切るスゴン(二番手)からは「“現在的”ではない。」と言われることもありましたが、
彼もシェフもだまって僕に任せてくれました。
ビザの問題で早々にその店を去らねばならない朝に
それまであいさつしかしたことの無かった大マダム(シェフのお母さん)が
「君の作るオニオングラタンスープが“今年”は1番だったのに」と期間限定ですが
褒めて頂けたのも結局は“現在的”(または現代的)では無いナツメグの香りにあったのかも
知れません。
時が流れて現代の“現在的”な料理を目指す僕がシェフとなっても
初夏に淡路島から送られてきた玉ねぎが冷暗室でゆっくりと甘みを蓄えた秋になると、
そしてそれをじっくり炒め今年もオニオングラタンスープを仕込みだすと、
アルプスでの情熱と感傷の短い冬に駆け抜けた灰色の夜明けを思いだします。
それは学生時代に聞いていたブルーハーツが今も色あせず、寄りかかる想い出の
中にあってもなお“永遠”であることに少し似ているかもしれません。
ただアノニムでは多皿コースを展開するうえである程度の量を必要とする
従来のスタイルではヘビー過ぎるので、本質を担保しつつ変形してお出ししています。
ナツメグの香るオニオンスープをたっぷりと吸った田舎パンのフレンチトースト。
何かが弾け飛び散ったまさしく「食べるスープ」です。
僕の過ぎ去った永遠の強い痛みを持つ今年のタパス(小皿料理)でした。
too much pain
by anonyme-kobe
| 2011-10-15 23:35